2005年 04月 07日
・さて、先のPHASE-23の感想で僕は >要するに、今の「種運」のこの展開は前作での「if」である。もし、あの時、オーブが大西洋連邦の勧告を受け入れ、その軍門に降っていたらどうなったか、という意味での「if」なのだ という一文を書いた訳ですが、ならばもし、「種」において地球連合によるオーブ侵攻がなされた時、全く別の判断をウズミがしていたらどうなっていたでしょう。 何はともあれ、シンがああいう形で家族を失う悲劇だけは避けられたのでしょうが、それ以外にも変わることはあったのかもしれません。 この項ではそれと、それに関することをちょっと考えてみようと思います。 ・まず、第一に考えてみたいのはウズミのあの政治的判断がはたして正しかったのか、ということ。 通説では連合がオーブに侵攻したのは宇宙侵攻に必要なマスドライバーを手に入れる為で、中立国云々というのは建前に過ぎない。 と、言うことはウズミは己の信念を貫き通す為にマスドライバーだけでなく、主要な軍事施設もろとも自爆して果てたのであるが、それは単に自己陶酔だったのではないか、ということになる。 いや、むしろそうして(実質的に)自分の施政が原因で起こったこの紛争に対しての責任を回避してしまったのだ、という批判はあって然るべきなのではないだろうか。 最初からそのつもりだったのではないのかもしれないが、連合が喉から手が出るほど欲しがっていたマスドライバーを爆破してしまったのなら、それならば最初からそうした上で連合の要求を受け入れれば良かったのである。 連合の侵攻が確実視された時点で、真っ当な政治家なら自国と連合の戦力比を考慮した上で判断を下していた筈である。戦った所で、勝てる見込みのない戦いであったことをウズミは知っていたのではないのか。にも関わらず、開戦に踏み切った理由が己の信念を貫く為だったとしたら、それはもう愚か以外の何物でもない。そこには犠牲となる-事実なった-国民に対する考えはない。 ・その一方、以前、僕は2/2付けの記事に対するコメントでこう書いている。 > また、オーブが連合に攻め込まれた件については、ウズミの政治感覚があまりに真っ当だった、ということではないかと。 >まあ、いくらなんでも連合とプラントがあそこまで性急な行動を起こすとは考えにくかったのでしょう。 >まあ、連合とオーブでは戦力に開きがあるとは言え、数日で戦闘が終結するまではいかないであろうから、持ち堪えている間に他の中立国へ働きかけ、停戦交渉を進める、というのがウズミの読みではなかったかと想像しています。 >アズラエルの選民思想はそれを遥かに凌駕していた訳ですね。 この考え方を採るなら、ウズミの政治的信念は兎も角、その政治的判断が間違っていた、ということになる。 ・ウズミの判断が正しかったのかどうかを「種運」で検証するのは不可能であるが、彼が自己の信念-国是を厳守しつつ、国民を守るという二律背反するものを実現しようとする気があったのなら、その方策は一つしかない。 それはオーブ軍の全ての装備を破壊し、マスドライバーと主要な軍事施設を爆破し、その上で連合の勧告を受け入れれば良かったのである。そうすれば少なくとも、連合によって国土を踏み荒らされるということは起きなかったろう。 無論、ここまでやっても人間は連合によって徴用され、そういう意味ではオーブの国是は踏み躙られるのかもしれない。けれど、これによって自国の民間人の理不尽な死だけは避けられる筈である。 確かに、オーブとは一般に考えられる民主国家ではなく、この国の指導部に国是よりも国民の安全を優先させねばならない義務はないのかもしれない。そう考えるなら、ウズミは一国の支配者-独裁者としての最期のみを考えるならドイツ第三帝国の総統・ヒトラーと同じとも言えるだろう。 この両者は己の考えのままの結果他国の軍隊を自国に侵攻させ、自国の国民を戦火に晒し、最期は敵の手にかかるのを由とせず自ら命を断っている。過程はどうあれ、その結果だけは著しく似ている。 まあ、そういう意味では「種運」におけるオーブの悲劇とはたった2年間足らずであそこまでに驚異的な復興を遂げてしまったことにあるのかもしれない。現実的に考えるなら、本土決戦を行い、主だった生産拠点も自ら破壊し、国民の何割かが国外に脱出した敗戦国がたった2年間で他国に軍隊を派遣出来るまでに復興した例を、不勉強な僕は知らない。 こうした観点から見るなら、ウズミの死後代表首長の座に就いたカガリの政治的手腕というものは、実はかなりのものなのかもしれない。インフラを整備し、流出した国民を迎え入れ、経済的にだけでなく軍事面でもブルーコスモスに恐れられるだけの水準に回復させたのだから。 ・閑話休題。 仮に連合との開戦が不可避だったとして、そうだとしてもウズミは死ぬべきではなかったのではないだろうか。 よしんば、ウズミの自決が避けられないものであったとしても、それまで彼を支えて来た有能な側近-政治家達を道連れにしたことはやはり無駄な死であったと思われる。ウズミが死を選んだからこそ、彼の死後に来るであろう苦難と困難をオーブが乗り切る為には熟練の政治家が必要不可欠だった筈だからである。 少なくとも、ウズミと側近の死は「種運」におけるセイラン家とその一党の台頭の原因の一つに間違いないと思われるからである。逆に言えばセイラン家はこれら一連の事件がなければオーブの首脳部にいることは出来ない可能性が高く、結果的に現在の地位を与えてくれた連合に対して配慮するのは(無能な)政治家としては当然なのであろう。 あそこで、最低でも側近達が生き残っていれば、その後のオーブという国の舵取りも別物になっていたことは確実であり、それこそがウズミが望んでいた「国是」のより確実な継承にも繋がってのではないだろうか。 ・では、「国是」の継承に絡むもう一つの問題として何故、ウズミはオーブ軍を無駄死させたかについても考えてみる。 前述の通り、ウズミら上層部は連合が本気で侵攻してくればオーブ軍などひとたまりもないということを知っていた筈である。更に付け加えるなら、「中立国」を標榜していた以上、他国以上に情報収集や分析に力を入れなければおかしい。そうでなくても、政治というものは常に最悪の事態も考慮しているのが常道なのである。 そうした非常事態に国民の安全をどう確保するか、という基本的問題を棚上げしていたが故に、オーブ軍は時間稼ぎの戦いを強いられた可能性は否定出来ない。そうなると、シンの家族が死亡したのもウズミら首脳部の対策の後手が原因、と言うことも可能になってしまうだろう。 またちょっと話がずれたが、土壇場でクサナギとアークエンジェルのみを「意志を継ぐもの」として宇宙に送り出すくらいだったら、もっと早い段階で計画的にM1アストレイ部隊を宇宙に輸送しておくべきではなかったかと思われる。 少なくとも、クサバギはイズモ級の2番艦らしいのであるから、だとすればイズモは宇宙に停泊していた筈。M1アストレイ全てを宇宙に送り出すことは不可能だったかもしれないが-ここでは敢えて「ASTRAY」の設定は除いている-、それでもクサナギ単艦に比して倍の戦力をカガリに付けてやることが出来たのではないだろうか。 宇宙世紀のスカーフェイスな人の台詞ではないが、戦争とは数であります。いくら志や理念が尊くとも、力がなければ現実の世界では無視されてしまるのは必定。いわんや、極限状態である戦争では。 死に行くウズミが本当に世界の平和を案じ、己の理念を託した我が娘の未来を心配するのであったら、あそこで無為に戦力を浪費し、パイロットを無駄死させるべきではなかったと僕は愚考するのです。 ・もし、ウズミが死を選ぶことなく外交努力によって時間を稼ぎ、持ち出せるだけの戦力の全てを宇宙に上げ。その上で残った国軍の戦力全てを破棄し、マスドライバーら主要施設を自爆させて、そこまでやって連合軍の勧告を受け入れていたら。想像でしかありませんが、オーブの戦後は大きく変わっていたと思います。 まあ、その為にはオーブは「中立国」であることを捨て、他の親プラント国家や当のプラントそのものとも連帯して、連合の強攻策に対抗出来るだけの実力を備えることが必要条件でしょうが。 そしてその為には金科玉条であったオーブの理念を捨てざるを得ないでしょうが、それで一国の平和も、国家間の緊張も緩和されないことを思い知らされた以上、本質を尊重しつつ現実に即したものに変えていくのは当然だと思うのですがね。現実をより良いものに変えていく為にも。 そこまでやって続編を作るのなら、そのきっかけとしてウズミとその側近が暗殺すればいいのではないですかね。国際的協調路線を主導していたウズミが暗殺されれば、世界の天秤が戦争へと大きく傾いても不思議ではないでしょうし。何より、それをやっても別段おかしくないブルーコスモスという存在があるのですから。 ・さて、そろそろ結論めいたことを敢えて書くとすれば、やはりウズミは高所大局からものを見ることに囚われ、自分がオーブ国民の生命を預かっているという基本的なことを忘れてしまっていたのではないか、という所に行き着くでしょう。 「種」という物語がカガリというウズミの遺児を主人公サイドに配置している関係で見えにくくなってはいますが、僕はあのウズミが採った行動は決して褒められるべきものではないと思っています。 「他国を侵略しない 他国に侵略されない 他国の争いに介入しない」というオーブの理念は立派ですが、それもその理念を国際情勢の中でどうやって位置づけしていくか、という困難な現実問題と折り合いを付けてこそ、です。まして、自国の国民の安全を見失っていたのではそのような高邁な理念も無意味であると言わざるを得ません。 ですから、カガリには理想を追い求めつつ、地に足をつけた立派な政治家になって欲しいと思っていました。また、先のオーブの悲劇と父の死をつぶさに見たカガリだからこそ、理想だけでも、現実主義だけでもいけないのだ、という考えになってくれると期待してもいたのですが・・・。 このままでは世界はまた、二年前と同じ轍を踏みそうです。 カガリには「狂った世界の真ん中で理想を叫ぶ」だけで終わって欲しくないのですが、ね。
by shunichiro0083
| 2005-04-07 15:41
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