2004年 12月 13日
・さて、今回俎上に載ってていただくのはこれである。 「種」のテーマが非戦であったということは既に何回か書いて来たことであるが、そこでは更に >前作は戦いを終わらせるのは、暴力ではないという非戦をテーマに据えて主人公たちのドラマを描いてきた と語られている。 しかしながら、これは単純な無抵抗主義の謂いでもないのもお判りだろう。キラは個人的に不殺を貫いてはいるが、それは単に無抵抗な標的を作り出しているだけに過ぎないのだ。戦闘力を奪われた機動兵器のパイロットが、退くこともままならず戦場で取り残されたならどうなるか。簡単に想像できると言うものである。 そして、三隻連合は数多くのMSを撃墜し、艦船を撃沈しているのだから(そう言えば、「種」では戦艦の類が沈む際の乗組員の描写があまりなかったような気がする。始まる前は艦隊戦を重視する、みたいなことを監督は言っていた筈なのだが描写はあんまり重要視しなかったらしい)。 視点を変えて言うなら、その「非戦」とやらを描きたいだけだったなら、あんな人工的に作られた被差別集団としてのコーディネイターなどというものは無用の長物である。こういう言い方をされるのは心外だろうが、対立の構図としての宇宙移民と地上の特権階級という図式は今でも立派に通用する。 むしろ、既存のしがらみから解き放たれているという点において、遺伝子操作された人工の種というコーディネイターよりも比べようがないほど優れていると言っていい。確かに作り手からすれば手垢に塗れたモノだったのかもしれないが、それを洗練させて今のマニアにも納得して貰えるようにアップデートし、デコレートするのもクリエーターとしての腕の見せ所だったのではないだろうか。 「種」のテーマもころころ変わるが、一番最初の監督の談話では「戦争はどうすればなくなるのか?」というものだった筈である。これだけでも非常に難しい問題であるのに、「種」はそれに加えて「コーディネイター」という政治的にも、倫理的にも答えの容易に出ない難問を抱え込んでしまった。 結果、この二つの問題は何ら解決されることなく、「種」は非常に安易な終息を見たのである。 ・そして「種運」は始まった。今回の武田エグゼクティブプロデューサーとしてのテーマは >前作から引き続き非戦ということを訴え続けるつもりであるが、今回は、戦争がなぜ無くならないのか、戦争や紛争が続いていくのはどうしてか、に焦点をあて、そういった戦争のメカニズムのようなものを追及してみようと考えて制作することになった ということであるらしい。 これについての反論を他の所で書いているの人がいるので、それをちょっと引用してみる。 >で、その後〇〇〇さんらと秋葉原で合流。店を覘いた後、ファミレスで駄弁るといういつものパターン。 そこで話に出たのは「種運」のこと。色々話すのだが、結局、戦争と言うものを描いている割にその世界観や描写がしっかりしておらず、筋も通っていないから視聴者がおかしく感じてしまうのではないか、という結論となる。 ちなみに一例を挙げるなら、本来ユニウス条約と言うものを結んでいるのなら、そこには条約で定められた内容の進捗状況や遵守されているかどうかを相互に監視する公的機関が必要とされる筈、とか。重大な条約違反が見つかった際に、どういう風な手続きをするか、などが取り決められている筈で、この間の話のラストのようにあんな突然に事実上の宣戦布告をするなどは、この世界ならばあり得ないんであります。 また、停戦条約と言うのは本来ならば軍レベルで締結されるもので、政治的な段階には達していない筈なのですが、少なくともプラント側は当時の評議会議長が調印していることから、和平条約級の効力を発揮してしまう、なんてこともあるらしいです。引用終わり> 民間の、現実の軍事に関する知識を持っている人間が考えただけで、これだけの粗が見つかるのである。それで何が >戦争のメカニズムを追及してみる なのだろうか。 戦争というものは政治の延長であり、また、最後の手段である。だからこそ、「種運」のように開戦前から遡って描こうとするのなら、そこでは政治というものをもっと真摯に捉え、描かなければならないのである。そうでなくては「非戦」もへったくれもないのだから。 ・確かに、「種運」も現実の戦争というものを十代の人たちに考えて貰うきっかけにはなるのかもしれない。だけど、まめに毎朝新聞にちゃんと目を通すようになったら、とても馬鹿馬鹿しくて「種運」なんか見てらんなくなるかもしれないなあ、とか思ったり‐若い子に本業と趣味を使い分けろ、という方が無茶な話だ。 だけど、多分それが真っ当な世の中のあり方なのかもしれない。この文を読んで、考えたのはそんなことだった。 最後に個人的な考えを述べると、C.E.の平和は多分、武力の放棄でも、武力の行使でも訪れない。必要なのは他を圧する力を持ちながら、自身の行動を律し得る存在が敵対する陣営の双方に戦争の停止を呼びかけることだろうと思う(要は中東和平において、米国が世界中から求められている役割である)。 単に平和を説くのでもなく、徒に武力を行使するのでもない。しかしながら強大な力を背景に、利害を調節する存在にこそ三隻連合はならねばならなかったのだ。そうなれる可能性はあったが、しかし、かれらはその道を選ばなかった。選べなかったのかもしれないが、結局彼らは戦争を終結させるのには何の手助けも出来ずに終わった。彼らがしたことは三度目の核の炎が宇宙に吹き荒れるのを防いだこと以外はアズラエルを。パトリックを。そして、クルーゼを斃しただけだったのだ。 だからこそ「種」は虚しく。 そして、いつか来た道を進んでいるように見える「種運」にも虚しさを禁じ得ないのである。
by shunichiro0083
| 2004-12-13 17:15
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